黄昏の船着き場にて

風の吹くまま気の向くままに

春の陽気を背に受けて—長崎

気づけばあっという間に試験も終わり、春休みが来た。

大学三年生の春休みに待ち構えているもの、それは就活である。朝井リョウの『何者』にはその恐ろしさが存分に描かれているというが、怖すぎて私はまだ読んでいない。

 

UIJターンのイベントで長崎の企業に勤める方と少しだけ親しくなり、企業訪問をさせていただく運びとなった。しかし、訪問する一日のほんの数時間のために飛行機に乗るのもアホらしい。そんな訳で、ついでに旅行もすることにした。

 

3月13日~16日 長崎

 

一日目

移動手段はスカイマークを使った。単純にそれが一番安かったからだ。以前新幹線と特急列車を使って長崎に行った際、あまりにも長い移動時間にめまいを覚えたため、以降九州には絶対に飛行機で行くことにしている。

今回は羽田から神戸で一度降りて、乗り継ぎして長崎に着くフライトだった。当日までそのことを知らず心の準備もないままに、離陸と着陸を2セット体験するあまり心臓によくない時間を過ごした。

 

企業が波佐見町にあったため、長崎空港到着後休む間もなくバスを乗り継ぎ、ようやく企業へたどり着き一息ついた。手土産のハーバーを渡すと、等価交換にかんころ餅というサツマイモでできた餅を貰った。

会社でしばらく過ごしたのち、皆で焼き肉を食べ、インターン生の泊まる社宅のようなものに案内してもらった。

 

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有田温泉にいたはなちゃん。どれだけ撫でても寝ていた。

インターン生の三人とは同年代であったことからすっかり仲良くなって、出会った当日に銭湯に行き裸の付き合いまでしてしまった。本当は恋バナでもしようかと思っていたのに、焼き肉を食い疲れて早々に寝た。

 

二日目

波佐見町といったら波佐見焼で有名な街である。陶磁器が好きで中学生の頃に陶芸を習っていた私は、ここぞとばかりに目を輝かせ、レンタルサイクルを漕ぎながら田んぼと山と川しか見えない田舎道を爆走することになった。

 

波佐見焼の窯元は中尾山という場所に集まっているため、やきもの公園にある陶芸の館でレンタルサイクルを借りた。四時間以内なら500円で借りることができる。

 

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工房あかり

一切人にすれ違うことなくチャリで爆走して20分程度だっただろうか、ようやく最初の窯元が見えてきた。「工房あかり」だ。

ここの陶磁器は絵本のような柔らかくカラフルなタッチの絵付けが多く、日々眺めるだけで豊かな気持ちになれそうだ。数分悩んだ末夜空と草木が描かれた陶器製のバターナイフを購入した。

 

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大新窯の二階の様子。陶器好きにはたまらない空間である。

チャリで坂道を上りつつ、事前に手に入れていたパンフレットで気になった窯元を訪ねまわった。

大新窯は歴史の長い大きな窯元だ。工房の上には全長170メートルにもなる「大新登窯跡」があり、気軽に見学することが出来る。

たまたま入り口前にいた同い年くらいの方が大変親切にしてくれて、窯跡の案内だけでなく工房の写真まで撮らせてくれた。

 

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大新窯の工房の様子

悩みに悩んだ末、小さな急須と小鉢をお迎えした。大量の陶磁器に圧倒されながらも、次の窯元へ向かう。

陶房青、光春窯、一真陶苑……他にもたくさんの窯元を訪ね、「陶器疲れ」を感じるほど陶磁器を眺め、手に取り、ようやく満足して中尾山の最終地点である交流館へ。そこでも茶碗を買い、荷物が陶器でいっぱいになったところで下山した。

 

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モンネ・ルギ・ムックにて

すぐ近くに西の原という最近話題のお洒落スポットがあるよ!ということを聞いていたので、そこで遅めの昼食をとることにした。

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古い民家を改築した店舗だそうで、古いものと新しいものの混在が落ち着く空間を演出していた。キッシュやキャロットラペの前菜の後に、メインの登場。インスタ映えするタイプのそぼろご飯である。店員さんたちが気さくで、食べながら有田温泉の話などをして過ごした。

 

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雑貨屋で出会ったオブジェ、インパクトがすごい。

そのあとも西の原エリアで雑貨を見たりぼーっとしたりして過ごし、陶芸の館までチャリを返しに向かった。

 

インターン生に長崎市内行のバス停まで送ってもらい、波佐見町と別れの挨拶をした。市内に着くと、その子に教えてもらった路面バスの24時間乗車券を購入し本日の宿、「カサブランカ」へ向かった。

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このゲストハウスは今まで泊まった中で一番人との交流を強制されなかった。私は旅先のゲストハウスで知らない人と一晩話すのも好きだけれど、そういったことが苦手な人、誰とも話さずゆっくりしたい人にはおすすめだ。もちろん積極的に宿泊者とコミュニケーションを取ろうと思えば、それも可能である。

新地中華街駅すぐ近くで利便性もよく、なんとなくで宿を選んだわりには良い選択をしたと思う。

 

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中華街の門

事前に調べていた「日栄湯」が臨時休業のうえしばらく開かないようだったので、旅行の醍醐味の一つである銭湯めぐりは、もともと市内に銭湯が少ないこともあり断念せざるを得なかった。

夕飯は企業の方におすすめされた「老李新地中華街店」で、チャーハンとラーメンのセットを食べると気力が湧いてきたため、もうすっかり日も暮れていたが夜景で有名な稲佐山を目指すことにした。

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稲佐山の夜景

近くのホテルから出ていたバスツアーに参加し、満員のロープウェイに乗り込み山の頂上を目指した。

「世界三大夜景」に選ばれるだけある素晴らしい眺めだったが、いかんせん寒すぎで数分眺めて写真を撮った後は、建物の中へ引っ込んでしまった。

 

 

三日目

 

この日は事前に予約していた軍艦島のクルーズツアーに参加するため、朝から路電に乗って大浦海岸通りへ向かった。

 

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長崎市路面電車。通常版のほかラッピング車両もある。

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船上から見た軍艦島

ここ最近の中では一番いい航海状況だったようで、特に揺れず酔うこともなく軍艦島まで近づいた。もともとは端島という名前の島だったが、その外観が戦艦土佐に似ているとして報じたことから軍艦島と呼ばれるようになったとか。(うろ覚えだから間違っているかも)

コンクリートの建物群が黒ずんでいて細長くて、大きさ的にも思った以上に軍艦に見えた。

 

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軍艦島上陸写真

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当時のままのコンクリート

軍艦島に上陸できる時間は各クルーズ会社により決められているため、それほど長居はできないがじゅうぶんに満喫することが出来た。

 

その後は、ベタな観光名所を巡ることにしていた。

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グラバー園にある建物群のひとつ

グラバーさんのお家がある「グラバー園」だが、残念ながらこの時は改修工事中の為肝心の邸宅は入ることが出来なかった。しかし、この日はいい陽気で気持ちよく散歩するには眺め、ロケーション共に最適だった。

 

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大浦天主堂

そのまま「大浦天主堂」まで歩き、入場料を払って教会の中へ。

真昼の陽光に照らされて輝くステンドグラスの美しさは、目を見張るものがあった。

 

続いて少し移動して、眼鏡橋へ。これまた企業の方におすすめしていただいた「ひとやすみ書店」さんへ行くことにした。

 

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「ひとやすみ書店」のホットアップルジンジャー

旅先で出会う小さな書店は、いつもの書店の何倍も心躍るものである。この書店はほんとうに小さなスペースに、書店員さんたちが良いと思った本だけを置くという方式のため、人の家の本棚を眺めるようで楽しかった。私の愛読する長野まゆみ小川洋子の本が置いてあると、少し嬉しくなった。

『はじめての短歌』と『使いみちのない風景』を購入し、そのまま店内の喫茶スペースでホットアップルジンジャ―を飲みながら読みかけの『琥珀のまたたき』を最後まで読んで店を後にした。近所にあれば週に一度のペースで通いたくなるような本屋だった。

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まだ18時台だったが、雷が鳴り始めたため夕食を取ることにした。夕食はこれまたおすすめしてもらった「文冶郎」に行った。

 

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文治郎のとんかつ

ここのとんかつが衝撃を受けるほどおいしくて、またすぐにでも食べたい気持ちでいっぱいである。まず肉が厚い、しかし柔らかくそれでいて歯ごたえは死んでいない。衣はサクサクとしており、油は新鮮でくどくない。

そしてこの店の驚く点は、とんかつ以外のものもめちゃくちゃおいしいということだ。付け合わせのキャベツは、ドレッシングがごまと塩の二種類用意されており、ちゃんと食べることを想定されている。そして甘みがありふわふわとしている。米もつやつやとしておりもちろんうまい。食欲が止まらずキャベツとみそ汁をお代わりした。

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食事中には土砂降りの雨となっていたが、会計をする頃にはそれも収まり、ちょっとついてるなぁと思いながら帰路に就いた。今思うに諏訪神社へ参拝したおかげだったのかもしれない。

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諏訪神社御朱印御朱印一つにつき栞を貰える。

 

四日目

 

旅先の喫茶店でモーニングをすることをひそかに夢見ていた私だが、とうとうその夢をかなえることが出来た。

 

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「富士男」のモーニング550円

長崎市民なら誰でも知っている名店「富士男」のモーニングセットがこちらである。なんで喫茶店のトーストはこんなにもおいしいんだろうか。ゆで卵も紅茶も日常的に口にしているが、やっぱり喫茶店で食べるのが一番おいしい。

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最終日に行くところは特に決めていなかったので、長崎駅からツアーバスが出ている三菱の「長崎造船所資料館」へ行くことにした。

 

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長崎造船所資料館外観

ここは三菱発祥の長崎造船所に現存する最も古い工場で、世界遺産明治日本の産業革命遺産」構成施設の一つだそうだ。

平日なこともあり総勢五名での見学となった。戦艦オタクでもなんでもないが、ここで造られ、そして沈没していった戦艦の歴史には胸が熱くなった。

 

長崎造船所 史料館 | 三菱重工

 

長崎駅へ戻ると、ひとやすみ書店の店員さんに教えていただいた「デモッソ・ノット・キーノ」へ向かうことにした。

 

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デモッソ・ノット・キーノのサワークリーム煮込みランチ

渋いビルの一階を使ったカフェで、店内には古道具や古い家具、お茶やお菓子などがぽつぽつと置かれていた。間取りの採光がちょうどよく、ゆったりとくつろぎながら時間を過ごすことができた。

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14時50分のフライトのため、昼食後はバスで長崎空港まで向かい、今回の長崎旅行は幕を閉じた。

今回訪れたのは波佐見町長崎市内だけだったが、長崎にはほかにも五島列島や島原など、観光地はいくらでもある。温暖な気候、美味しいごはん、そして観光客と分かるや否や話しかけてくる県民の人懐っこさ、非常に魅力のある県だなと改めて感じた。