黄昏の船着き場にて

風の吹くまま気の向くままに

ロマンスの出発点ー熱海

冷たい雨が降る10月の17日、一人で熱海に行った。仕事は順調だったけれど、私生活面にガタがきてしまっていて、一人で過ごす夜がないと苦しいくらいになっていた。そこで以前から泊まってみたかった「ロマンス座カド」を予約して、熱海への逃避旅行を計画した。

私の旅行には「前向きな旅行」と「後ろ向きな旅行」の二種類があるが、今回は完全に後者だった。この日の天気は私の心に呼応するようにどんよりと垂れ込めた雲に覆われ、真冬のような寒さだった。電車から降り、楽しそうな人々を横目に足早に喫茶店を目指す。食欲が無くて、朝ごはんは食べずに出てきたため、お腹が減っていた。有名な「ボンネット」の前にたどり着くと、「店内満席です」の立札が。しょうがないことだけれど、少しむしゃくしゃして、もうこんな日はさっさと風呂に入って寝てしまうと思い、宿を目指した。f:id:goemonburo5030:20201201134419j:plain

入れなかったけれど、写真だけは撮ってきた。次があれば行きたい。

今回の宿「ロマンス座カド」は、同じく熱海にある「ゲストハウスマルヤ」が経営する宿で、ゲストハウスの使い勝手の良さはそのままに、個室で過ごせる宿である。部屋によって内装が違うのだが、一番気に入った青いベッドリネンの部屋を予約した。

https://romancezakado.jp/

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荷物を置いて一息つくと、「せっかく熱海に来たのにこのまま寝てたまるか」という反骨精神のようなものがむくむくと湧いてきた。ゲストハウスのスタッフさんに「そんなに混んでいなくて、ゆっくりできる喫茶店はないですか?」と聞いてみると、「田園」という店を教えてくれたのでさっそく向かう。降ったりやんだりする雨をうっとうしく思いながらもたどり着くと、まず飛び込んできたのは琥珀色のシャンデリア。次に鯉のおよく池。オーナーさんが奥から顔を出すと、あまりにも店の雰囲気となじむ人物が現れて驚いてしまった。この店はアタリだと思った。

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頼んだのはジャムトーストに紅茶。何の変哲もないメニューではあるけれど、その確かな存在感が頼もしい。分厚いトーストを頬張ると、寒さでこわばったからだが解れた。

この旅行の目的は逃避だけれども、もう一つ、買ったばかりのカメラを使ってみることも目的だった。トーストと紅茶の写真をさっそくカメラで見てみると、予想以上に綺麗に撮れていて嬉しくなった。

田園 - 来宮/喫茶店 [食べログ]

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すっかり持ち直したので、少し熱海の街を歩いてみることにした。カメラ片手に歩くのは、普通の散歩と視点が変わるので楽しい。

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スマホと違って暗い景色も良く撮れる。ちなみに私は学生時代にNikonのカメラばかり使ってカメラだこが出来てしまっている為、結局ミラーレスもNikonから選んだ。

夜も深まってきた。そろそろ今日のお風呂と決めていた「福島屋旅館」へ。

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入り口左手にいる番頭さんにお金を払い、いざ風呂へ。本当はここでドライヤーを貸してもらえるとの情報を入手していたのだが、すっかり忘れていた。

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お湯が今まで入った中で一二を争うほど熱く、外が寒かったから余計に熱くて、まともに入れないほどだった。いそいそと身体を洗い頭を洗い、ようやく足もとからそっと湯に浸す。やっぱり熱いけれど、銭湯に来てお湯に浸からずに帰るなどありえないので、気合でドボン。熱すぎて身体は動かせないのだが、じっとしていると気持ちいい。この時は始めから終わりまで誰とも合わず、静かに過ごすことが出来た。

脱衣所で火照った身体と濡れた髪を扇風機で乾かしながら、夜は店で食べずに部屋でひっそりと食べようという考えがむくむくと浮かんできたため、近くの焼肉屋で弁当を予約した。

温まった部屋でお茶を飲みながら弁当をもそもそ食べ、好きな漫画の新刊を読み終わると、ひさびさに焦燥感の無い穏やかな眠気が訪れた。

 

18日の朝は気持ちの良い目覚めだった。窓を開けると昨日よりだいぶ寒さが弱まっていて、過ごしやすい気候だった。軽く身支度し宿を出て、マルヤへ朝食に向かう。

目の前の干物屋さんで干物を選び焼いて食べられるのが売りで、私もサバの味醂干しを焼いた。味醂干しはもともと色がついている為、イマイチ焼けているのかいないのか分からず、取り出すと生焼けだったのでレンチンした。

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味噌汁もちょうどよい塩味でよい朝ごはんだった。

名残惜しくも宿を出て、「起雲閣」を目指す。熱海の三大別荘の一つと言われた起雲閣は、谷崎潤一郎山本有三も訪れた赴きある洋館である。なにやら素敵なステンドグラスを見ることが出来るようなので、ステンドグラス好きとして熱海では外せないスポットだった。

起雲閣のご紹介 | 【公式】オーベルジュ フォンテーヌ・ブロー熱海|伊豆

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見て回った中で一番綺麗に撮れたステントグラス。色遣いがクラシックで気品を感じる。

洋館内の喫茶店でロシアンティーを飲み、次に向かうは「オーシャンスパFuua」。GOTOのクーポンが使えるそうなので、海を眺めながら風呂でも入ろうという目論見だ。

オーシャンスパ Fuua(フーア)| 熱海の日帰り温泉施設(公式サイト)

ここへ向かうのに大変手間取ってしまい、間違った道をぐんぐん進んでついにニューアカオまで行ってしまった。たどり着いたころにはうっすらと額に汗をかいていた。

 スパは確かにオーシャンビューで眺望は素晴らしかったのだけど、浜辺の道が近くてそちらから見えるんじゃないかと気が気ではなく、すぐにひっこんでサウナでぼーっとすることにした。

旅行のラストは来宮神社へ。飲酒による災いを避ける「酒難除守」があると聞いて、酒ばかり飲んでいる友人へ送りたいと思い立ち寄ることにした。

トップページ ■ 來宮神社

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流石に冷え込んできたので人はまばらだったが、滝の音を聞きながら休めるベンチがあったり、カフェスペースがあったりと境内でゆっくり過ごせる工夫がされている神社だと思った。

帰りがけに来宮神社すぐの「とん一」で珍しい牛肉の生姜焼きを食べて、帰路についた。

とん一 - 来宮/洋食 [食べログ]

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私の家から片道2000円足らずで行ける熱海だが、近くても旅情を感じられる良い旅が出来た。