人生の休憩所―京都1
11月10日~12日、修学旅行ぶりに上洛することにした。
行きたい気持ちはずっとあったが、決定打に欠け長年足を運ばずにいた。そんな私を京都へ向かわせた一番の動機は、へし切長谷部が「京のかたな」展に出品されるというニュースを目にしたことである。福岡からなかなか出てこない彼が、京都に出向く。それだけで私の京都行きは決定事項となった。
京都駅。早朝から多くの人で賑わっていた。
(金銭的に)ギリギリでいつも生きている私は、やはり今回も夜行バスで京都を目指すことにした。しかし、万全の状態で長谷部を拝むべく、此度は少し奮発してVIPライナーを使うことにした。夜行バスには10回以上乗ってきたが、今回が一番よく眠ることが出来たと思う。
何時間もバスの中で過ごすと、外に出て自分の足で地面を踏んだ時どうしてもほっとしてしまう。京都の早朝の空気は冷たく澄んでいて、深呼吸をするだけで体の中の不純物が浄化されるような気がした。
「京のかたな」展の看板。緊張と興奮のせいか写真に自分の指が映り込んでしまった。
旅のメインは京都国立博物館で開催される「京のかたな」展である。京都駅に着くとまっすぐ博物館最寄り駅まで向かった。
土曜日だったこともあり、コミケ大手サークルのごとく長蛇の列が出来ていた。やっとのことで入場しても、やはり列、列、列……半日かけてなんとか全体を回ることが出来た。へし切長谷部の列には3回ほど並んだ。去年の冬に福岡市博物館で一度拝んで以来だったので、こうして再開できたことに心から嬉しさが込み上げた。
長谷部を無事拝んだことで旅の目的は8割方達成したため、以降はゆったりとした心持で旅を楽しむことが出来た。
今期の授業で藤田嗣治について学んでいたこともあり、京都国立近代美術館で開催されていた「没後50年藤田嗣治展」へ行くことにした。
ちょうどお昼時だったので、平安神宮の近くに店を構える「岡北」さんへ行くことにした。
京うどん 生蕎麦 岡北 (おかきた) - 東山/うどん [食べログ]
「岡北」の生湯葉鶏卵うどん。たっぷり入った生湯葉ののどごしがたまらん。
人気店なのでやはりここでも並んだ。20分程度で入店し、暑かったためさっぱりしたメニューと迷うも「生湯葉が食いたい!」という素直な欲望に従い、生湯葉鶏卵うどんを注文。京都らしい上品な味わいの出汁をまとった生湯葉が格別にうまい!つゆにとろみがあるうえ擦り下ろしたショウガがわんさか入っていたため、なかなか冷めず最後まで額に汗をかきながら食べた。あつあつ飯過激派の私としては嬉しい一杯であった。
藤田嗣治展の場内看板。代名詞ともいえる「乳白色」の裸婦が大きく印刷されている。
腹を満たしたところですこし寄り道をして平安神宮の境内へ。お参りを済ませた後、偶然開催されていた「平安楽市」で朝食用のパンを購入した。京都は日本で一番パンの消費量が多いとのことで、京都でパンを食べることもひそかに旅の楽しみとしていた。
藤田嗣治展は幅広い年齢層の見物客で賑わっていた。展示の音声ガイドが津田健次郎ということで思わず借りて、ゆっくりと藤田の画と向き合った。
藤田は美しく柔らかそうな裸婦の画を描くことで有名だが、旅先での風景や人物を描いた力強くビビットな色遣いの画や、暗く凄惨な戦争画などを描き分け、とても器用で人物・画ともに多面的だなという印象を受けた。彼の描く猫があまりにも愛くるしくて、思わずおみやげにクリアファイルを買った。
1日目に一番京都らしさを感じた風景。紅葉と夕日を反射する水面が美しい。
帰路に就く道すがら、川辺の木々の紅葉に目を引かれしばし散歩をすることにした。今年の秋は暖かく紅葉はまだ少なかったが、場所によってはパっとあかりが点ったような色を見せるものもあった。どうしても忙しく生活度せざるを得ない今の暮らしの中で、こんな風に時間を過ごすのは自分にとって最高のご褒美だなとしみじみ感じた。
栗大福とニッキ餅。甘すぎずやわらかくてモチモチ!虜になった。
駅に向かって歩いていると、なんだか人だかりが。見ると和菓子屋のようであった。「ニッキ餅」の字を見てシナモンに目がない私は購入を決意。栗大福とニッキ餅が入った袋を下げて思わずにんまり。上機嫌で宿を目指した。
「ヱントツコーヒー舎」少数ながらも本のセレクトが絶妙。コーヒーが飲めないことを悔やんだ……
ゲストハウスのチェックイン時間まで少し時間があったため、事前に印刷していた宿の周辺アクセスマップでカフェを見つけ一寸過ごすことにした。辿り着いたカフェのドアには「まぼろし探偵社」の文字が……本当にここで合っているのか不安になって、少し周囲をうろうろしていると、タイミングよく店主さんが現れ案内してくれた。
宮沢賢治の童話や長野まゆみ、小川洋子の短編なんかが好きな人は絶対に好きな空間。ノスタルジックでハイセンスな店内は自力でちょこちょこリノベしたそう。萩原朔太郎の『猫町』を眺めながらアイスティーをゆっくり飲むと、ここが京都ではなくそれに似た別世界であるかのような気分に浸れて、久々に現実世界を忘れられた。
【公式】京都 ゲストハウス木音 レトロな京町家に宿泊 和朝食が人気
ゲストハウスのドミトリー。この秘密基地感が好感度をブチ上げた。
最近の一人旅はもっぱらゲストハウスを利用している。今回2泊ほどお世話になったのは平野神社からほど近いところに位置する「木音」。暖簾をくぐるとゲストハウスの運営者、宿泊者共に各々の位置に座りリラックスした時間を過ごしていた。
荷物を置いて、趣味の銭湯巡りの一環として船岡温泉を目指した。
船岡温泉。脱衣所の天井の彫刻が素晴らしく一見の価値あり。温泉も熱めで良い。
ほどなく歩き目的の銭湯へ。旅先の銭湯って、なんでこんなに特別で気持ち良い気分になるのだろうか。歴史のあるレトロな銭湯で、今日では貴重な存在。今思い返しても、もう一度入りたいなと思う。
シュシュファボリ (chou chou favori) - 鞍馬口/カフェ [食べログ]
さっぱりしたところで夜ご飯。昼は和食だったので夜は何となく洋食を選択。久々にトンテキなんて食べたなぁ。サラダに京菜が入っていてちょっと嬉しい。丁寧に作られていて盛り付けも美しかった。言わずもがなうまい。
宿に戻ると宿泊者の方と小一時間ほど会話を楽しんだ。青年海外協力隊の活動でスリランカにいたという女性にシンハラ語を書いて見せていただいた。「おしりみたいでしょ?」と言われるとそれ以降文字がおしりにしか見えなくて、なんだか面白くなってしまった。
部屋に戻るとふっかふかの布団に埋もれて、気づけば眠りについていた。今までで一番寝心地の良いベッドだった。ゲストハウスについては大変の世話になり、また楽しい思い出も出来たので二日目以降の記事でも触れる。