黄昏の船着き場にて

風の吹くまま気の向くままに

青き湖面と、牛ばかり②ー釧路・トドワラ・阿寒湖周辺

5月4日は朝から慌しかった。

いつもは9時間睡眠の私が、7時にホテルを出発するという苦行をしても訪れたかったのは「鮭番屋」だ。鮭番屋は炉端焼きの店である。朝から炉端焼きで新鮮な魚介類と白米とかき込むためだけに、日ごろ乗らないタクシーを捕まえて店へ向かった。

 

さて、鮭番屋に到着すると、すでに何人か店の前で待っている。中に入り整理券を取ると、6番目。よくよく説明を読むと、炉端焼きの1巡目で入れるのは6番目までだという。この時、ラッキー!今日はついてるなと確信した。

開店時間になり、店内に入ると店内には魚介類がずらっと並ぶケースが。ワクワクしながら選ぶ。

会計を済ませ炉端焼きのエリアに入ると、店員さんが慣れた手つきで魚介類を焼いてくれる。焼き加減とはなかなか難しいもの。それを全て行ってくれるとは嬉しいサービスである。

最初に頬張ったのは、ホタテ。凝縮された旨みが口いっぱいに広がり、美味い。次に鮭のハラス。もともとハラスが好きなのでこれを炉端で朝から食べられるのは至福の極みだ。脂の乗った身と白米をかき込む。身の塩味と脂の甘味で脳が幸福で満たされる。大満足のおいしさだった。最後に大粒の牡蠣を食べ、店を後にした。

 

レンタカーを借りて、最初に向かったのはフィッシャーマンズワーフという商業施設の中にある「魚政」という店だ。その店で釧路名物「さんまんま」を購入した。炊き込みご飯の上に焼いた秋刀魚を乗せ、間に大葉を挟んだ食べ物だ。鮭番屋で食べたこともあり一口しか食べなかったが、脂の乗った秋刀魚に大葉の香りがなんとも食欲をそそる味だった。

 

途中で時間があったので、何の気なしに釧路湿原へ行くことにした。丹頂鶴観れるかな?なんて話しながら湿原が一望できる場所まで軽い登山をしたが、いざ辿り着くと予想を超える広さに圧倒された。今まで見た景色の中で、1番広かったんじゃないだろうか。あまりにも広いので丹頂鶴らしきものは豆粒のようにしか見えなかったが、改めて北海道の雄大な広さを感じられた。

その後車は、こんなカーブあっていいんですか?と思わず突っ込まずにはいられないような山道や、永遠と続く直線、その脇には牛、または馬が牧草を食べている……というような長閑な道を走り続けた。

少し疲れたので、休憩がてら厚岸グルメパークへ寄ったが、かなりの混雑でなかなか車を止めることができなかった。

なんとか車を止めて、牡蠣とアサリ汁を購入。

グルメパーク内の小さな水族館で目を癒し、お土産に猫足昆布と牡蠣ラー油漬けを買って、継ぎなる目的地へ向かった。

(ところで、厚岸グルメパークに点在していた謎の外国人のパネルはなんだったのだろう。なんの説明もないのが不思議だった。)

 

さて、今回の旅のメインイベントの一つ、コープはまなかにやってきた。ここのお目当てはタカナシ4.0牛乳を使ったソフトクリームを食べることである。工場が実家からそう遠くないところにあったこともあり、タカナシ4.0牛乳は子供の頃から飲んでいた。飲むたびに美味いなぁと思っていたが、その牛乳がハーゲンダッツに使われていることを知ったのは北海道に越してきてからである。

見慣れたタカナシの看板を見ると、実家のことを思い出し少し恋しくなった。

ソフトクリームを食べると、胃にもたれないようなさっぱり感の中に、濃密な牛乳の旨みを感じる。これからいくらでも食べられそうだ。美味しかったので、久々に牛乳の方も飲みたくなり、コープで購入した。

寄り道が多くなったが、ようやくこれからこの世の果てを目指し車を一直線に走らせる。

途中で北方領土が見える道の駅に寄り、いよいよ砂嘴に入ると、だんだんと視界の両側が海になってゆく。あぁ、とうとうこの世の果てを見れるんだ、長かったなと思っていると、不意に暗い枯れ木の群れが見えてきた。

まだ着いていないはずなのに、なんで?カーナビには「ナラワラ」とある。どうやらミズナラが立ち枯れ、そのまま残っている場所のようだ。降り立ってしばし眺めると、夕暮れまで時間があるのにも関わらずなぜだか背筋がゾッとした。魔女でも住んでいそうな場所だ。それも、性格がねじくれ、誰にも相手にされずこの世を憎む老婆の魔女。普段そんなファンタジックなことは考えないが、ここではそんなことを真剣に想像させるような何かがあった。

さらに奥に進み、車を停めて歩きすすめると見えてきたのが今回の旅の目的「トドワラ」だ。こちらはトドマツの枯れ果てた姿が立ち並んでいる。「世界の果て」とも言われるその場所で、途中の売店で買った羊羹を食べながら思ったのは「死後の世界がこんなだったら嫌だな」ということだ。長い時をこんな場所で過ごすのは、あまりにも辛すぎる。小鳥達を追いかけるオジロワシを横目に、私たちは野付半島を後にした。

 

次は阿寒湖とその周辺について書くよ。