黄昏の船着き場にて

風の吹くまま気の向くままに

青き湖面と、牛ばかり①ー釧路・トドワラ・阿寒湖周辺

クリームパンのような手を持つ男を追いかけて、私は札幌へ移り住んだ。

札幌へ来て最初のゴールデンウィーク。広い北海道の中でどこへ行くべきか?答えはもう決まっていた。海面上昇の影響でじわじわと失われつつある、「この世の果て」ことトドワラだ。世界の果てなんてのはウテナでよく聞いたものだが、果たして北海道にある「この世の果て」とはどんなものか。テーマパークのように楽しいところではないだろうし、美味しいものが食べられるわけでもないが、とにかくなくなる前に見に行かねば。そんな思いに突き動かされ、クリームパンと2人で向かうことにした。

 

5月3日(木) 札幌〜釧路

札幌からトドワラまでは300キロ以上あるから、ひとまず近くまで行かねばならない。私たちは釧路でレンタカーを借りてトドワラを目指すことにした。

釧路へは飛行機でも電車でも行けるが、ケチって高速バス「釧路特急ニュースター号」に乗る。交通費を浮かせてその分美味いものを食べる算段だ。お昼までに釧路へ着く便は早々に売り切れてしまっていたので、仕方なく13時頃に札幌を出発するバスに乗った。渋滞で到着が遅れ、釧路に着いたのは19:30頃だった。

腹はペコペコ、尻は鈍く痛む。足早に真冬のような寒さの釧路を歩き、ホテルへチェックイン後今日の楽しみ「あけぼの」へ向かった。クリームパンのお気に入りの居酒屋で、大型連休では予約がないと入店を断られるほど大人気。乾杯した後、欲望のままに注文をした。

 

【今夜の食べたもの】

蕗と厚揚げの煮物

ホタテの刺身

バターコーン

行者にんにくの天ぷら

ラーメンサラダ

俵形コロッケ

刺身盛り合わせ

海老の刺身

玉ねぎポン酢

私はこの歳にしては食に煩く、めんどくさいと性質であることを自覚しているが、ここの食べ物はなんでも美味かった。

とくに、行者にんにくの天ぷら。食欲をそそる香り、口に入れた瞬間の軽やかさ、新鮮な素材の旨み。北海道に移り住んでから食べたものの中で1番と言っていいほど美味かった。すっかり行者にんにくの虜になってしまった。忘れられない味の一つになった。

 

あけぼのを後にし、二軒目に「かど屋」へと向かった。まだまだ寒い釧路の5月、22:30になっても行列ができていた。かど屋はつぶ焼と釧路ラーメンを出す歴史ある店である。

つぶ貝の行灯がチャーミングで嬉々として写真を撮った。

ラーメンの前につぶ焼を出すスタイル。なかなか最後まで身を取り出せない私に対し、連れはクリームパンのような手にも関わらず器用に中身を取り出していた。なんだか悔しい、私の方が刺繍をやっていて器用なはずなのに。つぶ貝を食いたいという情熱が足りないのか。悪戦苦闘していると気の利くマダムが「途中で切れたら、貝を垂直に板に叩きつけるのよ」と実践しながら教えてくれた。ぽろっと出てきた!すごーいという当たり前の感想が漏れる。

つぶ焼は甘めのつゆを入れて焼いているので、貝特有の磯の香りに甘めの味わいが加わり食べやすく飽きない。

つぶ焼が食べ終わる頃に、黒々とした釧路ラーメンが出てくる。汁の色のわりに味は薄めだと聞いていたが、普通のラーメンよりもむしろ薄めなのではないだろうか。散々こってりした料理を(それこそジンギスカンなんか)食べた後には沁みそうな味わいだ。懐かしく心温まる一杯だった。

 

酔い覚ましに、釧路の街を歩く。

躓きそうになり足元を見ると、鮭のレリーフがあった。この厳しい顔。

ライトアップされた橋の下の水面が美しかった。

湖面も牛も出てこなかったが、食レポを書きすぎたのでこの辺りで。