西日本終末旅行記④山口編1
さて、一行は島根県の海沿いをゆっくりと進み、山口県へと向かいます。
行く先にはどんな町が、どんな海が、どんな石ころが待っているのでしょうか……
それでは本編スタート!
3月9日
ゆうひパーク三隅で目覚めると澄み渡った晴天で、春の訪れを感じる柔らかい風が吹いていた。最高の目覚めである。のそのそと起き上がり外に出ると、水平線が見えた。あまりにも気持ちの良い長めなので、近くで見たくて少し坂を下ってみる。すると、海沿いに一本の線路が見えた。safariで検索してみると、どうやら折居駅と三保三隅駅を繋ぐ線路で、もうすぐ電車が来るようだ。
しばし海を眺めてぼーっとしていると、ガタンゴトンガタンゴトン……と控えめな音が聞こえてくる。左手に目を凝らすと、山をくりぬいたトンネルから一両編成の電車が見えてくるではないか。日本海を背景に走る一両の電車、レアすぎて鉄オタでもないのにはしゃいでしまって、たくさん写真を撮った。いつか乗ってみたい電車の一つだ。
写真を撮り終わると、道の駅がちょうど開いたので朝ごはんを食べることにした。
せっかくなのでご当地のものをと思い、魚のすり身に赤唐辛子を練り込んだ「赤天」入りのちゃんぽんを食べた。
思いのほかしっかりと辛くて、海風に吹かれた身体が温まった。
道の駅の看板猫であるぶーちゃんとしばし戯れて、その場を後にした。
道中、持石海岸という浜が見え、いかにも石ころが転がっていそうだと思い下車して石を拾いに行った。大きめで丸い石がごろごろと落ちていて、先輩は嬉しそうに浜の上に寝そべって私に笑顔を向けた。写真は載せられないが、一番いい笑顔をした写真が撮れた。
長いこと車で海沿いをひた走ると、ようやく山口にたどり着いた。センザキッチンという食品やレストランが充実している道の駅に降り立ち、私は肉うどんを、先輩はから揚げ定食を食べた。今思うとなぜ海沿いの道の駅で魚介を食べなかったのか、不思議である。
以前お世話になった周防大島で養蜂業を営む方に島の様子を聞くべく電話をかけたところ、やはりコロナで島全体が落ち着かない雰囲気に包まれていると話してくれた。温泉施設も閉まっていると聞き、ほとんど車中泊の私たちには厳しい状況のようであったので、山口の温泉街に行ってみることにした。
温泉街に到着すると、親子連れの鹿にお出迎えされた。リアルサファリパークである。そっと車を移動して降り立つと、何ともいえない古臭い匂い、そして温泉街特有の懐かしいようなあの匂いが混じってノスタルジーでむせ返った。
『つげ義春の温泉』にでてきそうな、なんとも鄙びた最高な温泉街である。つげ義春愛読者である先輩と二人、いまだかつてない程のハイテンションで街を巡った。どこでシャッターを切ってもレトロ全開である。
歩き回って気も済んだところで、日帰り入浴施設「町の湯」の暖簾をくぐり、ひとっ風呂浴びた。
風呂に入ったら、なんだかこの地から離れがたくなってしまった。すると先輩が「一泊したくない?」と言ってくれたので、宿を探すことにした。町の湯の番頭さんに宿泊地の相談をすると快く観光案内所に取り次いでくれ、今晩の宿が決まった。町の湯の番頭さんや観光案内所の方、そして当日の午後にも関わらず、どこの誰かもわからない小娘二人を泊めてくれた明治屋さんには千万無量の感謝である。
「明治屋」さんは歴史ある湯治場に相応しい赴きある宿で、一歩足を踏み入れた瞬間から大好きになってしまった。ふかふかの布団を敷いて、お茶で一服したあと、夜ご飯を食べに出かけた。
温泉街にある数少ない飲食店「そば居酒屋たべ山」でシカ肉のステーキ丼を食べた。鹿の親子にさっき会ったばかりだが、私は食べたいものを食べることにした。先輩はそばを食べながらビールをうまそうに呑んでいた。
二つ隣の席に酒屋の社長さんがいて、話が盛り上が何杯も日本酒をご馳走してくれた。
また町の湯に入り、いい気持ちで小雨の降る俵山温泉の町を歩く。この瞬間が永遠だったらいいのにな、と本気で思った。
次回は山口編2です。